ひっぱる影

katakoi20082009-03-09



先週の金曜日は、渋谷のBunkamuraで行われたクラウド・ゲイト・ダンスシアターの公演「WHITE」を見に行った。
この日、関東は嵐のような大雨で、首都高が渋滞。私が乗っていたバスがその渋滞にはまり、結局10分近く遅刻してしまった。(幸い公演の開始にはギリギリ滑り込むことができたが。)


クラウド・ゲイト・ダンスシアター(雲門舞集)は、中国圏で初めてのコンテンポラリー・ダンスカンパニーとして1973年に創立された。国際的に有名な振付家リン・フアイミンが率いるこのカンパニーは、古来の美をスリリングで現代的な動きへと変換し、独自の身体表現を追求している。
24人のダンサーたちは西洋と東洋から、対極導引、瞑想、武術、モダンダンス、バレエ、書道など、さまざまなトレーニングを受けているそうだ。実際、鍛え上げられた彼・彼女らの肉体は、とても美しかった。


私がこのカンパニーの存在を知ったのは、新聞で見かけたある写真がきっかけだった。私はそこに写された公演の1シーン(それが冒頭の写真)にいっぺんに魅了され、早速チケットを購入した。
前にもこのブログで書いたように、私はダンスというものが今ひとつ苦手で(それはたぶん、言葉による物語というものにあまりにも慣れ親しんでいるせいだろう)、それを打破するためにも、最近は機会があれば、極力ダンスを見るように心がけている。
それで先のきっかけとなった写真を見て「ああ、これなら少しはわかるかもしれない」と思い、出かけることにしたのだった。


公演の方は、やはり舞台装置や照明、衣装など相当に凝った演出がなされていて、グッと引き込まれるところがあった。海外のメディアもこの「WHITE」に関しては、非常に高く評価しているようだ。
私は公演を見ながら、静と動、緩と急、光と影、白と黒、前と後、立位と座位……など、相対立する二項というものを強く意識した。その背景には、台湾のダンスカンパニーならではの東洋的な世界観が反映されているかもしれない。十数名のダンサーがそれぞれに二項対立を身体で表現し、時に一致させ、時に不揃いに踊るさまは、幻想的でさえあった。


特に数名のダンサーが完全に影となり、ゴムのような黒い紐をゆっくりと後ろ向きに右から左、左から右へとひっぱって歩くシーンは、とても美しかった(写真でわかるかな?)。
どういうわけか、私はそのシーンを見ながら、生命の誕生ということを感じた。あの複雑に交錯する線は、もしかしてDNA螺旋の象徴だろうか。私たちは先祖から何か大事なものを引き継ぎながら、今ここにこうして存在しているんではないだろうか、私は舞台を見ながらそんな思いにとらわれた。


何かをひっぱるという行為は、もはや普段の生活の中でなかなか経験することのない動作だが、人間の生の営みにおいて、とっても重要な秘密を示唆しているように思われた。(そう言えば、運動会の綱引きって、いつから始まったんだろう? 綱引きのルーツはなんだろう? 調べてみると面白そうだ。)


今回の公演テーマをどこまで理解できているか、やはり自分でも心許ない限りだが、いくつかのシーンで心に感じるところはあった。また人間の身体が持つメディア性ということにも興味がわいた。
遅刻しそうになり、ヒヤヒヤ・ドキドキしたけれど、嵐の中、出かけてよかったな。