斬新で懐かしい絵

katakoi20082008-07-20


土曜日は久しぶりに展覧会に出かけた。


国立新美術館で開かれているエミリー・ウングワレー展
はじめて訪れたが、建物があまりに立派で驚いてしまった。


エミリー・ウングワレーは、オーストラリアのアボリジニで70歳をこえるまで絵筆を持ったことさえなかったチョー遅咲きの女性画家。
しかし亡くなるまでの8年間あまりで3,000〜4,000点もの作品を残したと言われている。


ヨーロッパ絵画の歴史を知る由もない彼女の作品は、でも不思議なことにモダニズム抽象絵画の流れを汲んでいるかのように見える。


彼女は自分の生まれ故郷アルハルクラの大地と自然、そしてそこに生きるすべてのものたちを描いているのだと言う。


アボリジニたちはひとりひとり自らが守るべき自然の精霊が決められていて、それを「ドリーミング」と呼んでいる。エミリーの「ドリーミング」の一つは、ヤムイモだった。だから彼女の絵のモチーフにはヤムイモが多い。


私は彼女の描くヤムイモの点描画を見て、いっぺんに魅了されてしまった。
赤や黄の細かな点でヤムイモの花や種を表しているらしいのだが、その背後にはうねるように力強く大地に張るヤムイモの根をうっすら窺うことができる。
それはあたかもわれわれ人類が歩んでき、そしてこれからも辿っていくであろう道筋のようであり、また身体にすり込まれた遺伝情報の配列のようでもあり、あるいは古い祖先が大地に描いた秘密の図形のようでもあり、はたまた宇宙飛行士が大気圏を突破して見上げた天空のようでもある。


エミリーの絵は、古くて新しく、斬新で懐かしい。
私はそんな不思議な感覚にとらわれながら、なぜかこの世に生まれてきてよかったと感じ、そうか、なにも死を恐れる必要はないんだと妙に納得した。