ああ、懐かしの少年時代

katakoi20082008-08-13



先週末、世間より一足先に盆休みをとって名古屋の実家に帰省した。
車で延々5時間の旅だ。


今回の帰省では、約30年ぶりに自分が通っていた小学校と中学校を訪れてみた。


田舎にある私の小学校は、かなり遠く、大人が歩いても40〜50分はかかる。そこを6年間てくてくと通った。(今回は4才の息子が一緒だったので、残念ながら車で行き来したが。)
小学生の時はあまり気にもかけなかったが、途中、お宮さんとか観音堂などがあって、結構、趣のある通学路だったんだなぁ、と今さらながらちょっぴり感動した。


先にも書いたように、今回は車でサッーと通っただけだけど、やたらと小学生を「テイテイ」と怒ってくる爺がいたキウイ畑とか、友達と勝手に桃をもいで食った農園とか、中学の時、初めてつきあった彼女まぁーちゃんの実家とか、いろんな思い出がワッとよみがえってきて、本当に懐かしかった。(こう見えても中学の時は女の子にモテたんです。勉強もスポーツも芸術も万能だったし、それでいてユーモアがあって硬派だったから。そう言えば、部活が終わった後、よく2人で夕焼けの中を歩いて帰ったなぁ。彼女は家が近くて歩きだったから、自分が自転車を押して。)


ニュースでは、今日あたりから帰省ラッシュで高速も新幹線も混んでいるみたいだけど、時間があったら、ぜひぜひ久しぶりに小学校を訪ねてみるといい。おすすめだ。


そうそう言い忘れたが、私の小学校は昔の雰囲気のままちゃんと建っていた。が、耐震のためか、少し大がかりな工事をしていて、あちこち金網フェンスで囲われていた。そのせいか校庭で遊んでいる小学生は一人もいなくて、校門も閉ざされていた。中学のほうもまったく部活をしている気配がなく、シーンと静まりかえっていた。
今時の夏休みって、どこもこうなんだろうか。なんだか寂しい気がした。


さて私が急に小学校を訪れてみようと思い立ったのは、帰省する少し前に、長野まゆみ少年アリス河出文庫)を読んだせいかもしれない。
少年アリス』は、兄さんから借りて、置き忘れた36色の色鉛筆をとりに夜の学校へと繰り出す蜜蜂とそれに付き合わされるアリスの、2人の少年の物語だ。


当然のことながら、そこで彼らは不思議な体験をする。なんと夜の理科室では、鳥たちが灯りを点し、熱心に授業をしていたのだ。アリスはたまたまポケットにしのばせていたレプリカの卵のせいで仲間と勘違いされ、鳥たちの世界へ引きずり込まれていく。蜜蜂のほうは、突然いなくなった友人アリスを懸命に探し、救出しようとする。(結末がどうなるかは、読書の楽しみの一つだろうから明かさないでおこう。)
これはもう宮沢賢治の世界だね。


文庫本の解説を書いている高山宏は、作者の長野まゆみを「言葉の技術者(アンジニエール)」=「マニエリスト」と呼んでいる。そして彼女がめざすのは、言葉を意味の重圧から解放することなのだと説く。
少年アリス』は異界幻想譚でありながら、ビルドゥングス・ロマンとしても読むことができる。長野まゆみは、女性でありながら、少年たちの世界を実に巧みに浮かび上がらせる。私が先にこのテクストを賢治ワールドと重ね合わせたのもそのためだ。


しかし男である私から言わせれば、本作はただただ懐かしいだけの世界である。
しかもその懐かしさはどこか人工的で作られた感じがして、涙が溢れるところまでいかない。(もっとも高山宏はそのちょっと無理矢理な、強引な感覚を評価しているのだろうが。)


で、最近、私が必死になって追いかけているのが、北原白秋だ。
例によって入門書として、写真が豊富な『新潮日本文学アルバム 北原白秋(新潮社)を読んでみた。


九州・柳川に生まれたトンカ・ジョンの悲哀は格別だ。彼が書く詩や小品、童謡は、どれもこれも懐かしい追憶の世界なのだが、そこには悲しみが宿っている。
いやそれだけでなく、少年の心は、時に自分でも説明のつかない残虐性を帯びることがある。白秋はちゃんとそこを押さえ、捉えている。(長野まゆみにそこまで期待するのは難しいのかな?)


たとえば、白秋の第2詩集『思ひ出』に収められている「青いとんぼ」は、こんなふうにはじまる。

青いとんぼの眼を見れば
緑の、銀の、エメロウド
青いとんぼの薄き翅
燈心草の穂に光る。

ここまではいい。問題は、後半。

青いとんぼの奇麗さは
手に触るすら恐ろしく、
青いとんぼの落ちつきは
眼にねたきまで憎々し。


青いとんぼをきりきりと
夏の雪駄で踏みつぶす。

これ! この感じ。
忘れていたけれど、少年にはこんな感情が急激に湧いてくるもんなんです。


たまにはふるさとに帰り、昔をふり返ってみるもんだね。


少年アリス (河出文庫)

少年アリス (河出文庫)

北原白秋  新潮日本文学アルバム〈25〉

北原白秋 新潮日本文学アルバム〈25〉