読書

乳房と読書

乳房は私の掌の形をしている……と、私のノートには綴られている。 続きはこうだ。 乳房は掌のために造られた 掌は乳房のために造られた ノートというのは、私の「読書ノート」のことで、これらの言葉は私自身の言葉ではない。堀口大学の詩の一節だ。 伴田良輔…

アートフルワンダーランド

今週は本屋で通りすがって、思わず釘付けになった2冊の本を紹介したい。(あぁ虫虫するのも久しぶりだなぁ。面目ないなぁ。) 1冊は、にしのあきひろの『Dr.インクの星空キネマ』(幻冬舎)。にしのあきひろとは、漫才コンビ「キングコング」の、あの西野…

「自由」であるために

わたしの周りの女性たちの間では、姜尚中の人気が高い。いかにも頭がきれそうなシャープな顔立ちと落ち着き払ったあの低くて甘い美声が人気の秘密のようだ。 わたしは彼のそうしたスタイルはもちろんのこと、学者としてのセンスにも十分敬意を払ってきた。(…

原点としての小さな場

ある女性が、私が教師であることを知って『留学生日記 イギリス式高校生活』(文芸春秋)という本をくれた。 著者は1988年生まれの池内莉佳子さん。実は私にこの本をプレゼントしてくれた方のお嬢さんだ。現在はロンドン大学に通っているとのことだった。 私…

私の解釈

今年の正月、妻と2人で鎌倉のお寺で写経体験したことは、前にこのブログでも報告した。 それで心のモヤモヤがすぅーっと解消したわけではない(いやいや未熟者ゆえいまださまざまな懊悩を抱えたままだ)けれど、あれ以来なんだかお経というものに親しみを感…

愛のオブジェ

愛とはどんな形をしているのだろう? ハート型? うーん……たしかに与謝野晶子の処女歌集『みだれ髪』には、藤島武二によるハート型の意匠がほどこされていた。晶子自身の説明によれば、キューピッドに射られたハートの矢は「恋愛」を意味し、その矢先からこ…

17才のための恋愛学

たしか山田ズーニーだったと思うが、彼女が言うには、人は人生で17才を2回経験するらしい。1回目は実年齢の17才、高校2年生の頃。2回目は大人になってからの17才で、高校や大学を卒業し、社会に出てから17年たった頃だそうだ。大卒なら39才という計算に…

アルス・コンビナトリア礼賛

Be3 Nf6 Nf3 Ng4 Nbd2 Nxe3 fxe3 Qe7 Qe2 f5 …… なんのことだか、わかるだろうか。 チェスの棋譜である。 小川洋子の最新作『猫を抱いて象と泳ぐ』(文藝春秋)は、八×八の升目の海、チェス盤を舞台とした物語だ。 主人公はリトル・アリョーヒンと呼ばれた少…

誰か僕と話してくれない?

面白い本が出ている。田山花袋の『少女病』(青山出版社)。発行は2008年11月だが、原作は1907年5月、雑誌『太陽』に発表された。明治の後半、100年前の小説だ。 主人公は杉田古城。文学者で、若い頃には相応に名も出て2、3の作品はずいぶん喝采された。…

逆転可能の世界

のゆりは東北新幹線に乗って新花巻へと向かう。 自炊部があると言う温泉に着いた彼女は、一緒にやって来た真人に「ねえマコちゃん、わたし離婚した方がいいのかな」と聞く。真人は適当なアドバイスを与えることができず(その理由は作品中盤で明らかになる)…

引き算をしてひとり

今年の正月は鎌倉の長谷寺で写経を体験した。夫婦そろって、黙々と2時間ちかく般若心経を小筆で書写した。写しているうちに周囲のことが気にならなくなり、自分ひとりの世界にどんどんと没入していった。(修行が足りないせいか、最後は足が痺れてしまった…

心を鍛え、身体を読もう

なんだか急に詩を読みたくなる時がある。 それを感傷的な時分と言えばいいんだろうか。 ちょうど前回の出張帰りがそんな気分で、新幹線に乗る直前、仙台駅前のジュンク堂に飛び込んで、中原中也『シガレットの恋』(飯塚書店)を買い求めたのだった。 中原中…

勉強の秘訣

中間試験の採点やら成績の処理やらでずいぶんと更新が遅れてしまった。 それにしても学生たちの出来の悪さには愕然とする。だいたい、ふだん授業中にきちんとノートをとらないからこうなるのだ。試験前にノートを見直すだけで、確実に10点はアップするのに。…

公私混同して語りあう

こう見えても「ボランティア」には興味があるんです。(ブログだから容姿は見えないと思うが。) 「ボランティア」については、金子郁容の『ボランティア もうひとつの情報社会』(岩波新書)を紹介してもいいのだけれど、今回はあえてより具体的で実践的な…

TOKYO礼賛

妻との最初のデートは東京タワーだった。 今週、授業で東京タワーを取りあげたので、そのことを思い出した。電話で「どこに行きたい?」と聞いたら、彼女は「東京タワー」と答えてくれた。ずいぶんなつかしい。 でもなんで東京タワーだったのかな? 実は東京…

シーザーサラダのような恋!

子どもの頃、「自分のおもったことを素直に書きなさい」と指導を受けた。小学校の作文の授業だ。 でも自分の感情をストレートに表現することほど難しいことはない。(だって、それは相当に勇気のいることでしょ?) いったい書くとはいかなる行為なのか。ど…

再会がもたらすもの

何年かぶり、いや何十年かぶりにある女性と再会した。こんなことって、あるんだねぇ。 私は一気にその女性に惹かれてしまった。 その女性の名は、子安美知子さん。ドイツ語・ドイツ文学が専門の早大名誉教授である。ミヒャエル・エンデ『モモ』の翻訳者とし…

キャラクターの「たましひ」

人の絵姿を「影」(えい)または「御影」というのは、そこに身体から遊離した「たましひ」の所在を認めたからであろう。 ――山本健吉『いのちとかたち』 紙片を埋め尽くし、ノートにびっしりと書き込まれた南方熊楠の文字にいたく感動したことがある。そう言…

倚りかかる関係

1926年大阪に生まれた茨木のり子さんは、2006年に亡くなった。 その80年の生涯を想うとき、自分もすでに半分近くを過ごしてしまったことに改めて愕然とする。だからそろそろ人生の後半戦の準備を進めなきゃとも思う。 茨木のり子さんの詩については、国語の…

一縷の望み

この生きにくい時代をどう生きぬくか。これはなかなか難問だ。 今回はそのヒントになりそうな2冊をとりあげておきたい。 1冊は大澤真幸の『不可能性の時代』(岩波新書)。もう1冊は佐藤優・魚住昭の『ナショナリズムの迷宮 ラスプーチンかく語りき』(朝…

〈かなしみ〉を資糧に

宮沢賢治の有名な詩「雨ニモマケズ」は、正式に発表されたものではない。晩年、賢治が病床で使っていた黒革の手帳に走り書きされた草稿に過ぎない。 先月、花巻の宮沢賢治記念館を訪れた際、この黒革の手帳がそっくりそのままレプリカされていたので、ちょっ…

アーティストとサイエンス

今週は出張だの用事だので、あちこちと出かける機会が多かった。 となると、なかなか本を読む時間もとれないのだが、移動中の乗り物は案外、格好の読書空間ともなる。本と乗り物って、相性がいいんだね。(どちらも何かを運ぶものとも言えるしね。横光利一じ…

追憶への旅

夏休み後半はある研究報告会の準備に追われ、ブログの更新がままならない状態になってしまった。(たった一事で心身ともにいっぱいいっぱいになってしまうなんて、俺もまだまだだなぁ。) というわけで、実際には間に合わなかったのだが、その研究報告会に出…

ああ、懐かしの少年時代

先週末、世間より一足先に盆休みをとって名古屋の実家に帰省した。 車で延々5時間の旅だ。 今回の帰省では、約30年ぶりに自分が通っていた小学校と中学校を訪れてみた。 田舎にある私の小学校は、かなり遠く、大人が歩いても40〜50分はかかる。そこを6年間…

SMとPM

最近は日本でも、大学などは8〜9月を夏休みとしているところが多い。 アホか! このクソ暑いのに。 情けないことに本校もその流れに逆らえず、昨日まで授業があった。 さすがにこの時期の授業はきつい。「がんばろう」と思っても、身体がついていかない。 …

一対にひそむパラドックス

先々週、部活の遠征に行って以来、疲れがとれない。おまけにこの暑さで、さすがに夏バテ気味だ。 ブログの更新もすっかり遅れてしまった。 ここ最近、読んだのは(1)内田樹『先生はえらい』(ちくまプリマー新書)と(2)松村一男『この世界のはじまりの物語』…

イメージと情緒

スポーツの世界では「イメージ・トレーニング」という言葉は定着した観がある。 でも「イメージ」って、なんだろうか? 手元の辞書を引いてみると「像」・「画像」・「映像」・「印象」・「表象」などの言葉が並ぶ。 私はこれまで漠然と〈言葉=概念になる前…

受け取ってもらえないプレゼント

「あなたが感じる「日本」を写真に撮って、写メールで送りなさい(対象はモノでも人でも場所でもなんでも構わない)。」 という宿題を出したら、4分の1が未提出だった。 あとの4分の3はなんとか提出したものの、どれもこれもありきたりの写真ばかりで、…

花に水をやろう

悲しいことにまたひとり、教え子が星へと帰って行った。 今はたくさんの花に囲まれ、それらに水をやっている頃だろうか。 今週はそんな悲しみに暮れながら、サン=テグジュペリの“Le Petit Prince”を読んだ。 日本では『星の王子さま』と言う。うまいタイトル…

ターナーのやぶにらみ

「馬鹿野郎」だの「間抜け」だの「頓直」だの、ケンカを売っているような「悪態」が口から威勢よくポンポン飛び出せば、さぞかしストレスを感じなくて済むだろう。 「陰口」はたたくが、面と向かって「悪口」をぶつける人は、今はあまりいないだろう。 この…