心を鍛え、身体を読もう
なんだか急に詩を読みたくなる時がある。
それを感傷的な時分と言えばいいんだろうか。
ちょうど前回の出張帰りがそんな気分で、新幹線に乗る直前、仙台駅前のジュンク堂に飛び込んで、中原中也『シガレットの恋』(飯塚書店)を買い求めたのだった。
中原中也については国語の授業で中高生の時に習ったと思うが、この本はその中也の詩に写真を組み合わせたものだ。
写真はすべて現代の私たちの日常的な1コマで、詩の言葉は内容によって字体や大きさ、レイアウトが変えられている。
成功しているものもあるし、ちょっとそれはどうかなぁと思う強引なものもあるが、総じて楽しめる本だ。こんな企画の本がもっともっと増えていいと思う。
エディトリアル・ディレクターは秋馬ユタカで、彼をはじめ数名のカメラマンが写真を撮っているようだ。その秋馬が「あとがき」で書いているのだが、中也の生まれた時代は、不思議に今とちょっと似ている。
新しい価値観がどっと押し寄せて、町中が浮かれ気分なんだけど、貧富の差はひろがって、日毎に闇と光がくっきりして……みんな分からなくなって、必死で明るさを取り繕っていた時代
だから中也の言葉は今の私たちの心に沁みる。
汚れつちまつた悲しみに
今日も小雪の降りかかる
汚れつちまつた悲しみに
今日も風さへ吹きすぎる
淋しや淋し、わが心。
なんの理由もないけれども、淋しや淋し、わが心……
正直過ぎては不可ません
親切過ぎては不可ません
女を御覧なさい
正直過ぎ親切過ぎて
男を何時も苦しめます
(中略)
あゝ恋が形をとらない前
その時失恋をしとけばよかつたのです
これが私の故里だ
さやかに風もふいてゐる
(中略)
あゝ おまへはなにをしてきたのだと……
吹き来る風が私に云ふ
中也の詩にはいつもどこか満たされない心の悲しみが宿っているが、本人は一端の男を気取り、ダダイズムに傾倒し、10代で恋人と上京し、その恋人を友人に奪われ(小林秀雄だね)、27才で詩集『山羊の歌』を刊行した。
『シガレットの恋』とは、だから見事なタイトルだ。中也のナイーヴさとやんちゃぶりがよく窺える。中也は「ただ、ただ「大好き」が欲しかった男」なのだ。
今の学生たちは詩集なんてほとんど読まないだろうけれど、世の中にはこんな面白い本も出ているので、ここを入り口に近代詩の世界に分け入ってみてはどうか。意外に現代に通じるトンネルを発見するかもしれない。
さて中也の悲しみは、決して身体とも無縁ではなかったと思う。
彼は長男文也君の死にショックを受け精神科に入院、翌年には後を追うかのように結核性脳膜炎で亡くなってしまう。(私はとうにやめてしまったが、)これは決して「シガレット」の吸いすぎではあるまい。心の病が身体の病を誘ったのだ。
(それにしても昨今の健康ブームはなんだろうねぇ。禁煙キャンペーン、メタボ撲滅運動……表層的な身体の部分しか見てない気がする。見た目よりももっと中身に目を向けるべきだと思うのだが。)
大晦日の今日、中也じゃないけれど、暗い気分で心を病んでいる人が、日本にどれだけいることか。今年の漢字は「変」だったらしいが、そのことに思いを馳せないほうがよっぽど「変」なのだ。上っ面の見た目勝負で、明るみに出たニュースばかりにとらわれていてはいけない。
で、この年の瀬、私が注目しているのはヨガだ。(あ、今さらか? もうブームは終わってる?)
いやいや、ヨガについては、坂口安吾が「木枯の酒倉から」で「瑜伽行者」(ヨーギン)を登場させて以来、ずっと気になっていたのだ。
ヨガの語源はサンスクリット語の「一つになる。結ぶ」を意味する「ユジュ」という言葉で、だからヨガは単なる体操・運動ではなくて、心と身体の調和を求める思想と言ったほうが近い。
なかなか奥が深いでしょ? で、私は入門書としてDVD付の小野さつき『キレイにやせるシンプルヨーガ』(新星出版社)を買ってみた。(いや別に私はやせたくてこの本を買ったわけではないですよ。もちろんモデルのお姉さんがキレイだからでもなく、あくまでヨガの思想を知りたくて……ゴニョゴニョ…。)
ま、ともかくやっぱりいい。ヨガって、こんな世界だったんだね。
この本には1日15分から始めるさまざまなポーズとプログラムがわかりやすく紹介されているが、何よりも最初の「まえがき」がいい。本書は「ダイエットできないのは、意志が弱いから」ではないと断言する。なぜならひとは気持ちのいいことは続けられるから。
ヨガはまず心をリラックスさせることを目指す。身体の調整を通して心の調整を行うのが、長年月を経てきたヨガのメソッドなのだ。
ストレスフルな現代では誰もが視線を落としがちだが、ヨガのポーズは私たちに遠くを見晴るかすことを思い出させてくれる。
実際に私も自宅でDVDを観ながらやってみたけれど、本当にちょっと身体を動かしただけで、随分と気分が晴れやかになる。
年末やり残した仕事がいっぱいあり、とてもこれじゃ年を越せないと落ち込んでいる諸君!(私もだ!) 心を癒すには詩を読んで思いっきり涙に暮れるか、たまには身体を動かしてみることだ。(ヨガなら自宅でこっそりできるから引きこもっていても大丈夫。動かないと、そのうちポニョどころか、ボニョになっちゃうよ。)
katakoiも新年に向けて怠けないで改めて再スタートを切ろうと思っている。世の中、暗いことが多いけれど、遠くを見晴るかすことを思い出そう、ね。
え〜2008年1月7日からはじまったこのブログもどうにかこうにか一年間続けることができました。これもひとえにくだらないおしゃべりに付き合って、伴走してくれたみなさんのおかげです。ありがとう。
とは言うものの、目標だった更新回数をぜーんぜんクリアできていないので、居残り補習として来年ももう少し「虫虫」を続けてみようと思っています。お暇な折り、またお付き合い願えれば幸いです。
ハイ、と言うことで、みなさん、よいお年を。
そして来年もヨロシク。
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