ぬくもりのある生活

katakoi20082008-09-23



先週末は研究会があったため、台風の接近にヒヤヒヤしながら、京都まで出かけた。(研究会については、また後日レポートすることにしたい。)
研究会の翌日はあいにくどしゃ降りの雨となったが、それでもせっかくなので京都の町をあちこち散策した。


前々から楽しみにしていた「生活と芸術―アーツ&クラフツ展」が、ちょうどホテルの近くの京都国立近代美術館で開催されていたので、まずはそちらを覗いてみた。
開館まもなく行ったせいか、お客さんもそれほど多くなく、ゆっくりと鑑賞することができてよかった。


アーツ・アンド・クラフツ運動とは、1880年代から1916年にかけてイギリスとヨーロッパで隆盛を極めた近代デザイン運動である。
その中心的な担い手となったのが、ウィリアム・モリスとジョン・ラスキンだった。彼らは多岐にわたる芸術活動を行いながら、生産活動を抜本的に見直すことを唱えた。産業革命を経て、どんどんと近代化を遂げていく人々の生活において、彼らは「質朴な生活」を追求した。


こうした発想はどこか現代の日本に通じるところがある。
私は以前からウィリアム・モリスの手がけるデザインに関心があって、この展覧会を半年ぐらい前から楽しみにしていたのだ。
実際に展示されていた椅子や机、グラスやタイル、壁紙やカーペットなどは、どれも洗練されたシンプルなデザインで、私の好みに合うものばかりだった。とりわけ植物や小動物をあしらったモリスの壁紙は、単純なパターナリズムの魅力を感じさせくれた。
贅沢なカリグラフィーを散りばめた書籍のデザインも目を見張るものがあった。


日本では、アーツ・アンド・クラフツ運動の影響は、1926年から1945年にかけて「民芸運動」というかたちで結実した。その中心的な人物は、柳宗悦濱田庄司、富本憲吉、河井寛次郎たちであった。
アーツ・アンド・クラフツ運動の背景には、田園と土着的な伝統へのノスタルジーがあるのだが、柳たちの活動もやはり、バナキュラーな価値の再発見、伝統工芸の蒐集ということに創作活動の源があった。


ただ実際の展覧会では、イギリス、ヨーロッパの流れから日本への展開には少々ぎこちない接続を感じた。もう少し工夫の余地があったんではないか。
まぁ、柳を考えなおすよい機会にはなったのだが。(柳が発見したという、木喰明満の木彫りの仏像はよかった。)


イギリス、ヨーロッパのアーツ・アンド・クラフツ運動と日本の民芸運動に共通するのは、デザイナーと職人が「手に手を取り合って、手と心を使って仕事をする」共同体制にある。
今私たちはそんなふうにしてモノ作りに取り組んでいるだろうか。心のこもったモノや建築に出会っているだろうか。
大量生産よりも個人の制作、小規模の工房での作品を目指したこれらの運動にもう一度注目したい理由がここにある。


午後は少し遠かったけど、あこがれの恵文社まで足を運んだ。こぢんまりとした小さな書店だが、一つ一つの棚に関わった人のぬくもりが感じられた。(大型書店で商品がたくさん陳列されてあれば、いいというわけでもないのだ。)


帰りはざあざあ降りの雨となったが、行きたいところに行けてちょっぴり幸せな気分だった。京都は私の肌に合うんだな。