我々に立ち止まっている暇はない!

katakoi20082008-12-21



先週の出張以来、なんだかウジウジ・クヨクヨ考えているうちに、あっと言う間に一週間が過ぎてしまった。情けない……。


そんななか昨日は待ちに待った松岡正剛の連塾「JAPAN DEEP2」だった。
連塾は前々から参加はしたかったのだが、こんなひ弱な分際にはちょっと敷居が高く感じられ、ずっと気後れしていたのだった。
だから当然、今回が初参加。思い切って行ってみてよかった。心の底からえぐられるような感動を味わった。


今回は「浄土に焦がれて、羅刹に遊ぶ」と題し、この体たらくな日本を切って伐って斬りまくるという趣向。ゲストは活殺のいとうせいこう、必殺の川崎和男、密殺の藤原新也だった。


いとうせいこうさんの話は、のっけからフルスロットル。とにかくすごかった。彼はやっぱり頭がいい。それでいて直感が働く。(これじゃ、かなわないな。)
彼は、もはや「物語」が力を失った現代においては、早書きだったドストエフスキーの呼吸をまねし、ゲームをしながらそのルールをつくっていくような振る舞いを戦略的に行っていくしかないだろう、と提案した。まったくもって同感だ。(あ〜彼のような人がもっと文学という場で活躍してくれたなぁ。)


2番手の川崎和男さんには、度肝を抜かれた。最初に50分ぐらいのプレゼンがあったのだが、あんなプレゼン見たことがない。さすがは世界が注目するデザイナーだ。(パワーポイントでセコセコ・ネチネチやっている学者の発表とは大違い。あ、比べる方が失礼か。学生諸君もたまには超一流の人と直に触れあう機会を持った方がいいよ。それだけで人生が変わる。)
川崎さんのデザインには、哲学がある。彼はそのことを「かたち」と「きもち」と「いのち」に向きあって、それらをつなぐデザインを目指したいと語った。日本にもこんなデザイナーがいたんだね。ちょっと飛び抜けている。いや、ちょっとどころじゃない。群を抜いている。本当に感動した。


私は文学の研究者だが、なぜか前からデザインというものに興味があった。(このブログを読んでくれている読者にはすっかりお見通しだろう。)そして自分でもその興味・関心の脈絡がはっきりしなかったのだが、デザインが「存在学」にまで到達している川崎さんの話を聴いて妙に得心した。つまり私の場合は、期せずして、ちょうど川崎さんの逆コースを辿るような形でデザインというものに逢着しようとしているのかもしれない、ということだ。
彼は講演の途中で「デザイン文理学」というような言葉を使っていたと思うが、私がやりたいのもそんなことに近いような気がする。うん、彼のことは今後も追っかけてみよう。


最後は写真家の藤原新也さん。このブログでも前に『メメント・モリ』を取りあげた。今年はその21世紀エディションが刊行されてもいる。
藤原さんは、老境にさしかかった現時点からこれまでの仕事を振り返りつつ、ゆっくりと話をされた。その空気には今年8月に出た『日本浄土』を思わせるものがあった。
でもやっぱりアーティストは前に前に進み続けていくんですね。私は、彼の落ち着いた口調のなかにも、60を過ぎてなお戦い続ける静かな怒りみたいなものを感じた。
「いま日本は地方の風景がこわれている」、そして「そこに暮らす子供と大人たちの顔が弛緩しきっている」という話が印象深かった。


そして最後に、こうした強者・三者と言葉を交わしながら、「連ね返して、組み合わせて、透いていく」ホスト松岡正剛の妙技には、やっぱり驚倒した。
彼は「いまの世の中に必要なものは時間とともに変容していくものではないか」、「そういう仕掛けを工夫していくことではないか」とサジェスチョンし、大佛次郎の「冬の紳士」を紹介しながら「自分は炭男になりたい」と締めくくった。「炭男」とは、断片的に置かれた大佛のダンディズムの熾火を見守る番人ということだろう。
「どんなことでも大事にするが、侮辱には耐えがたい」「年長者」としての「冬の紳士」。いま私たちは「冬の紳士」を蔑ろにし、見失っている。これではいけない。


今朝もテレビを見ていると、アメリカの大統領はついに靴を投げつけられたようだが(まったくもってお似合いだ!)、そしてこんな言い方をしては身も蓋もないかもしれないが、結局のところ、今日の課題はアメリカに象徴されるマネーゲーム、暴走をやめない資本主義のシステムに、いかに我々が対処して生きていくかということに尽きるようである。


誰もがこれではダメだと気づいていて、なおかつその戸惑いを隠せないでいる日本。
昨夜はまことに胸の空く一時を過ごした。活殺・必殺・密殺のお三方と師匠・松岡正剛には、またまた勇気をいただいた。私のいじけた気分を一掃してくれた。
そうだね、我々には立ち止まっている暇はない。なんとか前に足を一歩、踏み出さなければ。
私はまだまだ弱虫だけど、なんとか自分なりに頑張っていこうと思う。(挫けそうになったら、みなさん、応援ヨロシク!)


¶会場では松岡正剛の新著『神仏たちの秘密―日本の面影の源流を解く』(春秋社)が先行販売されていた。これ、間違いなく買いです。書店では今週末あたりに並ぶみたい。ぜひ手にとってみてね。カッコイイよ。