人形三昧!

katakoi20082009-08-22



今日は、東京で用事のあったついでに六本木21_21 DESIGN SIGHTで行われている「骨」展を見に行った。山中俊治ディレクションによる展覧会だ。いかにも斬新なテーマである。
実際に足を運んでみると、そんなにたくさんの作品は出ていなかったけれど、どれもこれも本当に素晴らしかった。一つ一つのレベルの高さに魅了された。


ふだん私たちは「骨」なるものに思いを馳せることはないが、のっけからダチョウやペンギン、キリンなどの骨格標本を見せつけられ、「そうか、人間もまた骨からできていて、骨へ還るだけのことだな。何も恐れることはないんだな」とふと思いつき、妙に納得させられた。
また電化製品や飛行機などの乗り物がレントゲン写真に撮られていて(ニック・ヴィーシーの作品)、私たちの身の回りのモノたちもすべては「骨」から成り立っているんだ、と了解した。(世界は「骨」からできているんだね。)


展示作品の中では、明和電機の「WAHHA GO GO」がまず印象に残った。
この作品は実際に手で触れて動かすことができるのだが、しかし動かしたところで、劇的な変化はなく、ただ妙な声を発して笑うばかり。私には、かえってその無意味さが面白く感じられた。


全体的には、今回の展覧会ではデジタルアートの作品にいくつか目を見張るものがあった。(いまデジタルの世界は、ここまで来ているんだね。)
THA/中村勇吾の「CRASH」は、生命のない無機的なデジタルの空間にか細い線でデザインされた数字がゆっくりと落下してきて、それがそのまま底にたどり着くやいなや木っ端微塵に砕け散るという作品。私は何度も繰り返し、その壊れゆく数字の運命に見入ってしまった。
それから白い壁にうつった自分の影が、突如骨格を与えられ、勝手に動き出す緒方壽人+五十嵐健夫の作品「another shadow」もすごかった。(子どもを連れてきたら、きっと喜ぶだろう。)


そしてなんと言っても、今回の目玉は玉屋庄兵衛のからくり人形「弓曳き小早舟」だろう。庄兵衛は、人形作りで一番難しいのは、顔だという。顔さえできれば、身体は自ずと決まるそうだ。からくりの仕掛け自体は、職人にとっては自慢の種にはならないのだろう。
今回、山中俊治が考案した人形は、あえて目鼻のないのっぺらぼうの顔だったが、ビデオの中で弓を引き放つその一連の動作にあわせ、弓曳き童子が刻一刻と表情を変えるさまが素人の私にもはっきりと見て取れた。それは目鼻のない無生物の人形にまさに魂が吹き込まれていく瞬間のように感じられた。


夜は、用事を済ませた後、池袋まで足を運んで、結城座創立375周年の記念公演「乱歩・白昼夢」を観劇した。結城座は、結城孫三郎(両川船遊)率いる傀儡師集団。人形芝居のパイオニアである。
今回の「乱歩・白昼夢」にもちゃんと〈江戸糸あやつり人形と江戸写し絵による〉という副題が付せられている。


写し絵とは、「風呂」と呼ばれる特殊な幻灯機を使って極彩色の絵をスクリーンに映し出すアニメーション。いわば動きのあるカラフルな影絵である。初代・両川船遊こと、田中喜兵衛は独特の演出を考案すると、写し絵はたちまち人気を博し、彼はあっという間に写し絵の第一人者になったと言う。
この田中喜兵衛と遠縁にあった結城座は、九代目から写し絵とあやつり人形を組み合わせ、それ以来今日まで両者を継承していくこととなった。


私は今回、初めて糸あやつりの人形芝居を見たが、すぐにその不思議な世界の虜となった。
傀儡師は、ただ単に人形を操るだけではない。操りながらセリフを発し、自らの身体でも演技を行う。その意味では傀儡師と人形は、まさに一心同体。しかし時に人形が傀儡師に話しかけ、会話が生じる。このときばかりは二心別体だ。すっと同化したり、ぱっと遊離したり、その虚実皮膜の間が観客になんとも不思議な感覚を引き起こす。


ましてや今宵は乱歩。「夜の夢こそまこと」と放言した乱歩の怪しげな世界は、人形芝居にこそ似つかわしい。一体どこまでが現実で、どこからが嘘か。操っているのは誰で、操られているのは一体、誰? 人形? それとも……。
乱歩はよく映画化されてきたけれど、私は断然、映画よりも人形芝居の方がいいと思った。


先にも触れたように、結城座は人形だけでなく、写し絵も利用する。それがまた絶妙なのだ。今回はその意匠に宇野亜喜良を起用しているから、もうたまらない。
乱歩の不気味な世界に宇野のエロスが溶け出していく。宇野のあの細い裸体の少女が大きくなったり、小さくなったり、身を屈めたり、股を開いたり……舞台の上で、自由自在に乱舞する。
さらに今回は音楽を黒色すみれという2人の女性ユニットが全面的に手がけ、ずっと舞台の袖で生演奏していた。彼女たちの歌もとってもよかった。(帰り際、彼女らの最新アルバム『Gothlolic』を買ったら、その場ですぐにサインしてくれた。)


いや〜今日はなんとも贅沢な一日だったなぁ。
前にこのブログで佐々木幹郎の『人形記』のことを書いたけれど、今年はなんだか人形に憑かれた年になりそうだ。
またいつか機会があれば、どこかで人形芝居を観てみたい。きっと心奪われることだろう。


骨―第5回企画展「骨」展展覧会カタログ 山中俊治ディレクション

骨―第5回企画展「骨」展展覧会カタログ 山中俊治ディレクション

Gothlolic-ゴスロリック-

Gothlolic-ゴスロリック-